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原料・製造工程


ウイスキー


ヴァッティング

モルトウイスキー独特の用語。ヴァットとは“大きな桶”の意。1樽ごとに異なった個性をもつモルトウイスキーを、この大桶に入れて混ぜあわせることをヴァッティングといい、生まれたウイスキーは、ヴァッテッドモルトウイスキーと呼ばれます。これはあくまでもモルトウイスキー同士を混ぜる場合に限られており、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混ぜあわせた場合は、たとえ大桶を使ったとしても、ブレンディングと呼び分けており、生まれたウイスキーはブレンデッドウイスキーと呼ばれます。

エージングセラー

エージングとは、熟成のこと。したがって、エージングセラーとは、熟成中の樽を保管する酒庫。

カスクストレングス

蒸溜機から溜出してくる蒸溜新酒(ニューポット)を、樽に詰めて熟成させ、熟成のピークに達したら、直接瓶詰めする、そのときのアルコール度数のこと。アルコール度数は、熟成中に1樽ごとに異なってきます。したがって同一蒸溜所で、同一期間に蒸溜した酒のすべてが、同一カスクストレングスで仕上がる可能性はごく少ないといえます。

木桶発酵

木の桶で行う発酵法。ウイスキーの発酵工程において使われる発酵槽には、ステンレスと木桶の2種類があります。ステンレスタンクと比較すると、木桶には次のような特徴があります。
  1. 森などに棲む乳酸菌などのミクロフローラ(微生物)が温かい木桶にやってきて、発酵プロセスを複雑にし、もろみに多様な成分を生成します。
  2. 保温性にすぐれているので、上面酵母の活性化に有利。

グレーン

ウイスキーの原料には、大麦、ライ麦、とうもろこしなどが使われていますが、これら原料となる穀類のことをいいます。
このうち、大麦を発芽させた麦芽については、グレーンとはいわず、これと区別して「モルト」と呼びます。

後熟(コウジュク)

樽貯蔵を行ったウイスキーから市販規格のウイスキーを製造する際には、通常、何種類もの原酒樽からのブレンドが行われます。
ブレンドが終了したウイスキーは、風味を向上させ、品質を安定させるため、びん詰めされる前に、再度、数週間から数ケ月程度の貯蔵を行います。
この貯蔵工程を後熟といいます。
ウイスキーは、びん詰めされますとワインとは違い、それ以上熟成(品質の向上)が進むことはありません。

酵母(コウボ)

アルコール醗酵を営む微生物の総称をいいます。
穀類は麦芽の働きにより糖化(でんぷんなどの炭水化物をぶどう糖などに変化させる反応をいいます。)されます。酵母は、その糖化された糖類からアルコールと炭酸ガスを造ります。
麦汁に酵母を加えますと、酵母は麦汁の糖分を分解し、それをアルコールと炭酸ガスに変換すると同時にウイスキー独特の味わいや香気成分も造り出します。
酵母は、ウイスキーの製造だけに使われているのではなく、ビールやワイン、清酒などを醸造する際にも、また、ウオッカやジンなどの蒸溜酒の穀類の醗酵にも使用されています。全てのお酒は、酵母のこの働きを利用して造られていて、お酒の製造には不可欠なものです。
酒造りには、それぞれのお酒に適した酵母が使用されています。

後溜(コウリュウ)

ウイスキーの蒸溜に関してテイル(尻尾)という場合、ポットスチルから溜出しているヘッド、ハートのあとの最後の部分をいいます。アルコール度数が低く、快適でないオイル成分を含み、熟成には向かないことから蒸溜技術者の判断によってハートの部分から分離されます。前溜(ヘッド)と後溜(テイル)をあわせたものを余溜(フェインツ/feints)といいます。

直火蒸溜(ジカビジョウリュウ)

ウイスキーの単式蒸溜機に直接1000度の炎をあてて加熱すること。直火でゆっくり蒸溜することにより、もろみ(ウオッシュ)の1部が高熱でトーストされる結果、香ばしくて力強い味わいのモルトウイスキーが溜出します。

熟成(ジュクセイ)

英語でマチュレーションエージング。酒を樽などで長時間貯蔵すること。ウイスキーの場合、蒸溜の終わった原酒をオークなどでつくった樽に入れ、長時間貯蔵します。その間、樽材を通じて不要な成分が空気中に蒸散していったり、徐々に樽に入ってきた空気によって原酒の成分が酸化したり、またエステル化が進んだり、樽材からリグニン、糖類などの成分が溶け出して微妙に影響しあうことによって、ウイスキー独特の香味成分が生成されていきます。

シェリー樽(シェリーダル)

蒸溜したウイスキーを貯蔵し、熟成させるための樽の一つです。
もともと、シェリー樽は、スペインでシェリー(酒精強化ワイン)の貯蔵用として造られ、使われてきたものです。
これが、ウイスキーの貯蔵用として使われるようになったのは、ひょんなことからでした。それは、今から約300年ほど前の1707年にイングランドがスコットランドを併合し、スコットランドに高額の酒税を課したことが始まりです。
それまで、スコットランドの人たちは、蒸溜したばかりのウイスキーを飲んでいたのですが、この徴税を逃れるため、手近にあったシェリーの空樽にウイスキーを詰め、人里離れた山奥に隠すなどして、各地で密造が行われるようになりました。そして、後日隠したウイスキーを飲んでみたところ、樽に詰められたウイスキーは今まで味わったことのない素晴らしいお酒に変わっていたというわけです。
この発見により、シェリー樽は、密造時代から現在に至るまで使われ続けています。
シェリー樽を使ったウイスキーは、シェリー酒様の色や香味を持ち、深みのある独特な熟成香のあるウイスキーとなります。
シェリー樽の容量は、約480Lです。

蒸溜(ジョウリュウ)

英語でディスティレーション。蒸溜所のことはディスティラリーといいます。蒸溜とは、液体を加熱し、沸騰点のちがう揮発成分を分離・濃縮すること。ウイスキーの場合、穀物を発酵させたアルコール含有液を、蒸溜機にかけて、アルコール濃度の高い酒をとり出すこと。1気圧のもとで、水の沸騰点は100度ですが、酒の主成分であるエチルアルコールの沸騰点は78.325度。この差を利用して始めに蒸発してくるエチルアルコールの気体を冷却して、高濃度の酒にします。ジャパニーズウイスキーやスコッチウイスキーは、大麦麦芽の発酵液を単式蒸溜機で2回蒸溜して、アルコール度数70度前後のモルトウイスキーをつくります。また、穀物の発酵液を連続式蒸溜機で蒸溜して、93度前後のグレーンウイスキーをつくります。アイリッシュウイスキーは穀物の発酵液を単式蒸溜機で3回蒸溜して、原酒とします。アメリカやカナダのウイスキーは1部の例外を除いて、連続式蒸溜機で蒸溜します。

前溜(ゼンリュウ)

ウイスキーの蒸溜に関してヘッド(頭)という場合、ポットスチルから溜出してくる最初の部分の液体をいいます。これは、モロミから最初に蒸発してきた成分を冷却機で液体化した液体ですが、不快な香味成分を含んでいるため、次に溜出してくるハート(中溜)の液体を受ける前に分離して、熟成には使いません。フォアショットForeshotsともいいます。どちらの場合も、語尾にSを付けて複数形にするのがふつうです。

樽(タル)

樽は、ウイスキーやブランデー、ワインなどのお酒を熟成させるために使用される木製の容器です。
ワインには、主としてフランス産のフレンチ・オークが、ウイスキーには、多くが北米産のホワイト・オーク、ヨーロッパ産のスパニッシュ・オークなどが使われています。
樽材には、液体を通しにくく、優れた強度と耐久性を持つ、樹齢100年以上といわれる柾目の通った良質のものが使われます。
蒸溜時に無色透明なウイスキーは、樽で貯蔵することにより、琥珀色に変化し、味も香りも深く複雑になっていきます。いわゆる、熟成で、ウイスキーには、この樽貯蔵が必要不可欠なのです。
このため、樽は、麦や水、酵母と並んでウイスキーの原料そのものであるといっても過言ではありません。
樽の大きさは、ウイスキーの香味や色沢、熟成の速度に影響を与えます。小容量の樽ほど熟成は早くなります。
樽は、大きさによって、パンチョン(480L入り)、シェリー・バット(480L入り)、ホッグスヘッド(230L入り)、バーレル(180L入り)に分けられます。
ウイスキーの樽は、新樽使用が条件となっているバーボン・ウイスキーを除いて、何回か繰り返し(4~5回)使用されます。最近では、使用後の樽は、家具や調度品の素材としても使用されています。
樽は、総称して「カスク(CASK)」と呼ばれています。

単式蒸溜機(タンシキジョウリュウキ)

英語でポットスチル。構造は、発酵液(ウオッシュ)を入れ加熱蒸発させる釜と、出てくるアルコールの蒸気を冷却する冷却機、この両者をつなぐ連結管から成ります。シンプルな構造のため、香気成分の富んだ、風味の強い蒸溜酒を生み出します。一回の蒸溜ごとに中身を入れ換えます。モルト・ウイスキーの蒸溜は2回(アイリッシュ・ウイスキーの場合は、原則3回です。)に分けて行われます。初留釜と再留釜では、形やサイズが異なる場合が多く、通常は再留釜の方がサイズは小さくなっています。
ポットスチルは、銅で造られています。サイズや形は蒸溜所によって様々ですが、銅を使うのは、加工しやすいこと、熱伝導に優れていること、蒸溜工程で発生する不快な香味成分を取り除く触媒の効果があることなどによるものです。

チャー

焼き焦がす、黒焦げにするという意味です。
新しい樽を造る時、一度樽の内側を直火で焼きます。これをチャーといいます。
樽は、焼くことで樽材の成分が分解され、それがウイスキーの中に溶け込んで甘い熟成香と華やかな香り、タンニンなどのポリフェノールを付加させます。
なお、直火に代えてヒーターで間接的に加熱する方法がとられることもあります。この場合は、チャーではなく、「トースト」といいます。ウイスキーの樽の寿命は、60~80年くらいといわれています。
このため、樽は繰り返し何回か使われますが、そうした樽は活性化のため、再度の熱処理が行われます。これを「リチャー」といいます。
アメリカでは、バーボンの貯蔵樽には、内面を強く焦がした新樽しか使えないことが法律で定められています。

天使の分け前(エンジェルズ・シェア)

蒸溜したウイスキーは、すぐに樽貯蔵されますが、貯蔵期間中に樽からは毎年2~4%のウイスキーが蒸発し、消失します。
ということは、10年もののウイスキーですと、最初に樽詰されたときから、おおよそ18%~34%も減ってしまっていることになります。
しかし、この間、ウイスキーは樽の成分を吸収し、また、樽を通して酸素と接触するなどして熟成しているのです。
もったいないなとも思いますが、この蒸発、消失がなければウイスキーの品質は向上しないのです。
これを天使の分け前(エンジェルズ・シェア)と呼んでいます。

糖化(トウカ)

麦芽(モルト)をつくり、これを細かく砕いて温水を加え、約65度にし、麦芽中の糖化酵素でデンプンを糖類にかえます。これを発酵、蒸溜したものがモルトウイスキー。
グレーンウイスキーの場合は、蒸煮した穀物に大麦麦芽を加えて、同様に糖類に変えていきます。これらの変化過程を糖化といいます。

ニューポット

単式蒸溜機(ポットスチル)から溜出したばかりの若いモルトウイスキーのことをいいます。アルコール濃度約60~70%で、この段階ではまだ無色透明。若くて火のように激しく、鋭い香気にあふれています。

ハート

ウイスキー蒸溜に関してハートという場合、ポットスチルから溜出してくる液体の最初の部分(ヘッド)と、最後の部分(テイル)を取り除いた“中溜部分”のことをいいます。ウイスキーの場合、ポットスチルで2回蒸溜を繰り返すのが一般的ですが、2回目の蒸溜のハートの部分のみが樽熟成に振り向けられます。ハートのことは、ミドルカットともいいます。

麦芽(バクガ)

英語でモルト。発芽した麦のことで、ウイスキーやビールの最も重要な原料。麦を水に浸漬し、発芽槽で温度をコントロールしながら発芽させ、理想的な発芽状態になったら、火力で乾燥させて発芽をとめます。これが麦芽。この麦芽を粉砕し、温水を加えると、芽のなかに生成した糖化酵素の働きによって、麦芽中のデンプンが糖分に変化します。これがマッシュであり、濾過した液が麦汁です。麦汁に酵母を加えると、アルコール発酵がはじまります。こうした麦汁だけでつくられる酒が、モルトウイスキーです。

発酵(ハッコウ)

酒類では、アルコール発酵をさします。酵母のもつ酵素の働きにより、糖類が分解されて、アルコールと炭酸ガスを生じる現象。ウイスキーの場合、糖化した麦汁に酵母を加えると、アルコール度数7~8度の発酵液が生まれます。発酵液のことを英語ではウオッシュと呼びます。

ピート

ヒース(エリカ科の低木で、ヘザーともいいます。)やコケ、シダ類が堆積してできた泥炭、草炭のことです。寒冷地の痩せた酸性土壌でしかできないといわれています。
スコットランドには、ピートの層が広く分布しており、春、これを切り出し、一夏天日乾燥させ、秋、蒸溜所に運んで使用します。もともと樹木に乏しかったスコットランドでは、昔から燃料として使用されていました。
ウイスキー造りでは、原料である麦芽の発芽を止め、乾燥させる際に、ピートを使います。これを焚くことにより、麦芽にピート特有の香り(ピート香、スモーキー・フレーバー)が付加されます。
世界的なウイスキー産地で、ピートを使用している代表的な国はイギリスと日本です。

ホワイトオーク

ウイスキーなどの貯蔵のために使われる樽材です。
北米が主産地で、非常に固く、液体を通しにくい材質で、長い貯蔵期間が必要なウイスキーの樽に最適な木材です。樹齢100年以上といわれる柾目の通った良質のものだけが厳選され、使用されます。

マリッジ

フランス語ではマリアージュ。本来の意味は“結婚”ですが、“融合”の意味もあります。ウイスキーやブランデーの原酒を混合した後、風味を安定させるため、しばらく寝かせること。日本では、後熟、あるいは再貯蔵ともいいます。ウイスキーの場合、熟成を終えたモルトウイスキーは樽同士ヴァッティングされたり、グレーンウイスキーとブレンディングされたりして、最終工程を迎えるわけですが、その後もしばらく寝かせて瓶詰めを行います。この間がマリッジで、モルト同士や、モルトとグレーンが融合し、バランスのよい製品になります。

モルト・ウイスキーの原料(麦)

モルトウイスキーの原料には大麦が使われますが、大麦には、六条大麦、四条大麦、二条大麦があり、モルト・ウイスキーには二条大麦が使用されます。
二条大麦は、穂軸に沿って麦の粒が2列に並んだ麦で、でんぷん質が多く、タンパク質が少ないのが特徴です。
別名、ビール麦ともいわれ、スコッチ・ウイスキーやジャパニーズ・ウイスキーのほか、ビールの原料として使われています。
スコットランドでは、長い間ベア種という品種が使われていましたが、1960年代に品種改良されたゴールデンプロミス種が誕生し、その後、オプティックなど次々に優良な品種が開発され、アルコールの収得量は飛躍的に増加しました。

連続式蒸溜機

グレーンウイスキーや酒類を連続的に蒸溜する装置。数十段の棚をもつ塔を使用し、1回の蒸溜中に棚ごとに精溜を繰り返し、アルコール濃度の高い液を連続的に溜出します。連続式蒸溜機は、1826年、スコットランド人のロバート・シュタインによって考案され、1831年にアイルランド人のイーニアス・コフィーによって実用化されました。
コフィーの連続式蒸溜機は、パテント(特許)が認められましたので、別名パテント・スチルとも呼ばれています。
この連続式蒸溜機の発明により、グレーン・ウイスキーが誕生しました。
グレーン・ウイスキーは、主としてとうもろこしを原料とすることから、モルト・ウイスキーに比べ、コストも安く、連続式蒸溜機を使用することにより、生産効率も高く、かつ、大量に生産できることから、多くの蒸溜所で造られるようになりました。
酒質はライトで、モルト・ウイスキーのような強い個性は持ちません。