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薬用酒とは

古来、お酒は薬でした。飲むことで体が温まったり、気持ちが高ぶったり、食欲が増したり…普通の食物からは得られない作用が有難かったのでしょう。「医」という字の古字である「醫」をみても、医が酉(さけ)によって支えられています。

一方で、人々は普段口にする動植物の中で、特別な作用があるものがあることに気付きました。体の調子や気分がよくなる経験を重ね、薬になる動植物、つまり生薬を発見しました。

しかし生薬の中には、そのままでは飲みにくいものもあります。体が弱った人にも服用されやすいように、様々な方法が考えられました。水で煮たり、すりつぶして粉や丸剤にしたり、またお酒と一緒に服用したり。そうした創意工夫の結果、お酒の中へ生薬を直接浸して成分を取り出す方法が編み出されました。それが「薬酒」です。
生薬を直接お酒に浸すことは理にかなっていました。アルコールは生薬の薬効成分を浸出しやすく、また体に吸収されやすくします。保存もきくようになりました。その香味は心身に快い刺激になります。人々の生活に有用だったのでしょう、世界各地でその土地ならではの薬酒が造られています。

西洋ではすでにローマ時代(1世紀)の書物『薬物誌』に57種類の薬酒が記載されており、中世時代には錬金術の手法を応用して、強壮剤や不老不死の薬としての薬酒づくりがさかんになりました。18世紀に造られたベルモットなども、そうした文化的背景のもとに生まれた薬酒の一種と考えられます。

また漢方ではその成立時期(紀元頃)から内用薬として薬酒が用いられており、中国では現在でも一千種類もの薬酒が飲まれていると言われています。
日本の薬酒の歴史も深く、奈良正倉院に伝わる文書の一つに「写経生は終日机に向かっており胸が痛み脚が痺れるので二日に一度は薬の酒を飲ませて欲しい」と書かれています。この文書は739年ごろ書かれたもので、当時すでに「薬の酒」があったことを伝えています。また、お正月に飲まれるお屠蘇も、みりんに防風、桔梗、桂心などの生薬を浸けた薬酒ですが、日本では811年に宮中で用いられたのが始まりとされます。現在も各地で薬用酒が造られていますが、数百年の歴史を持つものも少なくありません。世の中は変わっても、体の中は変わりません。様々な地域で、様々な時代に、健康維持に役立てられてきたお酒です。